今回は2019年3月に発表された「NHK意識調査」の結果を見て感じたことを書いてみたい。
1973年から5年ごとにNHKは「日本人の意識調査」をしている。昨年2018年はその第10回目が行われ、先月その結果が発表された。
第1回目から第10回目までの50年間は、日本人にとってだけではなく、世界の潮流が大きく変わった半世紀であった。わが国でも高度経済成長期から新自由主義によるグローバル化に至る今日まで、幾何級数的に発展(?)を続けてきた。平穏な日々を送っている庶民には、あまりにも急展開なためこうした変化にはついていけていないが、花粉症のように空気を通してその影響を強く受けている。
その1つの良い例が結婚に関することだ。
1993年では「人は結婚することが当たり前だ」その質問に対し45%の人が賛成をしていたが、2018年には27%しか結婚への強い思いを持っていない。
反対に著しく増えたのは「必ずしも結婚する必要はない」で65%にも上っている。さらに、子供を持つことに関しては、「結婚したら子供を持つことは当たり前だ」が54%から33%に大きく減少するとともに、「結婚しても必ずしも子供を持たなくていい」が、40%から60%に増えている。完全に逆転現象を呈している。少子化はさらに進むだろう。
先日有名国立大学に在籍している“あ〜く”の卒業生が訪れてきた。「将来のことはもう決めたの?」と尋ねると、「いい企業に勤めてそれなりの収入を得て、あとは自由気ままに生きていたい」と言う(ほざく?)ではないか。
「どういうこと?」と重ねると、「国のためとか、社会のためとかで働きたくはないのです。出来れば50歳ぐらいで会社なり官庁なりを辞めて、後は自分のしたいことをやって暮らしていきたい」と言う。
でも、驚いてはいけない。これと同じ傾向がNHKの意識調査でも示されている。
こうした意識の変化は、どこから生まれてきたのだろう。
1つは近代家父長制家族制度の崩壊にある。
70歳を迎える私のような世代では、親父の背中がモノを言っていた。父親はわが家とわが国の明日であり、疑いのない保証であった。
しかし現代は、NHK意識調査にも表れているように、家庭内協力が47.8%で夫唱婦随(家父長制家庭)は調査開始時が21.9%だったものが三分の一の7.5%にまで減った。また、日常の生活満足度が増大するとともに保守化の流れが本流となっている。
現状の生活に不満を持っている人は、やや不満も含めてわずか8%でしかない。さらに神秘的なものや魔術的なるものへの憧れ、畏敬の念などが再生していることも注目させられる。生活の安定という経済成長の課題が完了したことにより、それまであった合理化圧力が解除されるか、減圧されることによって、こうした精神的なものが生まれたのではないだろうか。
書籍売り場でも、哲学や思想のコーナーよりは、スピリチュアルコーナーに人が集まっているのも、一つの表れかもしれない。いわば脱高度成長期の精神変容とでも言える現象だろう。
しかし、こうした傾向を喜ばしいと思えるだろうか。どう考えてもわが国の将来に明るい日差しが見えないのは私一人の錯覚だろうか。日本のGDPが上がる要素がないだけでなく、海外資本に飲み込まれていく日本企業の実情を見ていると、そのうち誰のために働いているのか自問自答しなければならなくなるだろう。
また、ヨーロッパを列車で旅行していると、アジアの高校生によく出会う。その大半は中国の高校生で、5人前後のグループで移動している。彼らはおそらくエリートや富裕層の子息なので、英語で会話をすることができる。学校の様子や将来の希望などを尋ねても、一人一人が自分の考えをしっかりと持っている。
残念なのは日本人の男子高校生に出会ったことがないことだ。NHKの意識調査でも、海外の人と友達になりたいは58.2%、貧しい国の人々を支援したいが68.1%あるにも関わらず、将来海外に留学あるいは仕事をしたい人は33%しかいない。
内向きというか、敢えて井の中の蛙になりたがる傾向がある。とりわけ男子に内向き傾向が強いのはなぜなのだろう。言葉は悪いが去勢された男の子たちが、将来指導者として立ち回ってくれるか心配だ。
しかし、上述の卒業生が言っているように「国のためとか、社会のためとかで働きたくはないのです」というのが本音なのだろう。自己満足度を上げるという戦略は、世界の潮流があまりにも速いために、追従していけない者たちの開き直り戦略なのかもしれない。と、理解はするものの…。わが国の教育課題はまだまだありそうである。 |